爺の繰言

 夏坂健が著作の中で紹介しているエピソード。
 夏坂氏と杉原輝雄プロとはNHK教育の「ベストゴルフ」の収録で知り合ったらしいが、毎週ある収録の打ち合わせで、必ず杉原プロが夏坂氏を迎える形になっていて、夏坂氏を待たせなかったらしい。NHKスタッフも夏坂氏も恐縮し、杉原プロを待たせないようにしようと早め早めに行くようにするも、いつも杉原プロが先に来ている。こうなったら、どれくらい早く来ているのか先回りして確認してみよう、という事で30分前に約束のホテルのロビーに行って待っていたところ、反対方向から全力疾走で飛び込んで来る「ゴキブリ色に日焼けしたおっさん」が見えたと言う。
 その収録で、ゲストで若手プロも参加した時があったが、その若手プロが収録の待ち合わせに遅刻した。詫びの言葉もろくに言わずにゴルフ場に向かおうとした際、杉原プロが一言。「お前、待ち合わせの相手が天皇陛下でも遅刻したのか?」

 …言っている意味が分からない人が居るかも知れないから解説。 自分が大切だと考える約束には、人は必死に準備をする。入学試験、就職活動、社運を賭けた大事な取引先、結婚を考えている人とのデート待ち合わせ…本気で考えているのだったら、前日に荷造りをする、時間に余裕を持って行動する、時刻表を確認する、複数の交通機関があるか調べる、不安だったら一度目的地まで行って確認する、目覚ましをいくつも用意する…注意しようと考えれば、いくらでも準備できる。

 逆に言えば、待ち合わせに遅刻してくるような人間は「その待ち合わせはどうでもいい事だと考えている」という事。「待ち合わせ相手なんか、いくら待たせても構わない人間だと軽んじていたり、見下している」という事。